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鹿児島家庭裁判所 昭和31年(家)1046号 審判

申立人 中川トシ(仮名)

相手方 山木盛一(仮名)

主文

事件本人に対する出生届錯誤につき、○○○市○○○町○○○番地山木盛一除籍中同人の出生届出人の資格「父」とあるのを「同居者」と訂正し、父母欄中父の氏名を消除し、母の名「キク」とあるのを「トシ」と訂正し、続柄欄中「長男」とあるのを「男」と訂正することを許可する。

理由

(一)  申立の趣旨とその理由

申立人は主文同旨の審判を求め、その申立の理由とするところは下記のとおりである。

事件本人は戸籍上は父亡山木太郎、母亡キクの長男として記載されているが、真実は本籍○○○市○○○町○○○番地亡中川吾平(昭和二六年○月○○日死亡)と申立人間に生れた者であるから、右戸籍の記載は誤りである。なにゆえかかる真実に反する記載がなされるに至つたかというのに、それは以下述べる経緯に由来するのである。すなわち、申立人は大正二年頃から前記中川吾平と事実上の婚姻をしたのであるが、申立人は前記山木太郎、同キク間の長女で太郎の法定推定家督相続人であつたため婚姻届の提出はできなかつた。しかるに、申立人と吾平間に大正三年九月○○日伸子が生れたので、本来これを吾平の庶子として出生届をすべきであるが、親族協議の結果これを太郎、キク間の子として届出をした。ついで、大正五年一一月○○日吾平と申立人間に事件本人が生れたのであるが、同人を太郎、キク間の長男として届出でるならば、申立人は太郎の法定家督相続人の地位を失う結果、申立人は吾平と正式に婚姻することができるので、これまた協議の結果、太郎が事件本人を太郎とキク間の長男として出生届をなし、しかる後大正五年一二月○○日申立人は吾平と婚姻をした。

以上の次第であるから申立人と盛一との戸籍上の身分関係を真実に合致させるため主文記載の通りの審判を求める。

(二)  判断

申立人はさきに森雪子(上記太郎とキクとの間に生れたものとして届出でられた子)を相手方として、雪子は申立人の子であることの確認を求める当庁昭和三一年(家イ)第二五七号親子関係存在確認調停事件を提起し、同事件については当裁判所は昭和三一年一一月一二日「相手方森雪子は申立人中川トシの子であることを確認する」旨の審判をなし、右審判は同年一一月二七日確定した。しこうして右確定した審判の理由中には右雪子および本件の事件本人山木盛一が真実は申立人と中川吾平の子であるにかかわらず、なにゆえ山木太郎、同キク間の子として届出でられたかについて詳細な消息を認定しておりその認定事実、ならびにその一件記録に徴すると本件申立人が戸籍訂正を求める理由として主張する前記事実はすべて真実であるものと認めるに十分である。

しこうして、本件のように親子関係の存否について戸籍訂正の許可を求めるについては関係当事者を相手方としてまづその身分関係の存否についての実体的判決ないし審判をうることを前提要件とするというのが通説であるが本件の場合は、事件本人のみならずその戸籍面上の両親および実父も死亡しているため、かかる判決ないし審判をうる途は全く遮断されている。

しこうして、本件の場合のように基本的身分関係の存否についての判決ないし審判が相手方とすべき者の死亡のため得られない場合(嫡出否認、子の認知等の場合については別途制限があるが)には、判決ないし審判がないという理由のみによつて戸籍訂正の申立を却下することなく、戸籍訂正許可事件の中において証拠に基いてできるかぎりの審理をとげ、その主張にかかわる身分関係について心証を得られる限度において訂正許可の審判をすることがこの種事件を特に司法機関である家庭裁判所の審判の対象とした法の精神に合致するものと思料する。

されば本件申立は手続的にも、また実体的にも十分の理由があるものと認め主文のとおり戸籍訂正を許可する次第である。

(家事審判官 伊東秀郎)

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